京仏具 千有余年の老舗 真言宗各本山御用達・密教仏具専門店
平成十九年五月二十四日は四百年にもおよぶご悲願が成就された日でもありました。この日にむけて私共へのご用命は再建、大願塔のお荘厳でありました。
ご本山にはご本山に相応しき仏具を配し奉り、その仏具には軽々に同業他社が思いつかぬような意匠を、と社員一同は燃えに燃えた次第でありました。
ただ、思いとは裏腹に、とっかかりからいけません。頂いた建築図面を何度見ても内部のイメージが湧かず、工事現場を訪ねても不安が増殖するのみで、これ以上は納期に支障あり、 ギリギリのところで職人に号令を発したのであります。
ご発注を頂戴した時点で賽は投げられていたのではございますが、ややもすると沸き起こる漠とした不安を打ち消す為に、職人へは完成度をあげ、大技、小技を使い切るよう、切に要望いたしたのでございます。
大願塔密壇の足部は出る処をもっと出させ、えぐる処は神懸かりでえぐらせ、須弥壇に至っては立体感の極致を求め、勾欄には前例無き意匠に小技をちりばめさせ、妙音殿の前机、密壇に於いては斯の如し。
納品は著しい動揺から始まりました。
「こうであったのか…」。
大願塔天井の梵字を見て下さい。ぐるりの連子窓の上にステンドガラス。妙音殿の壁にはモザイク壁画。また天井にも青いステンドガラスが入るとは、田中伊雅は凡庸なる仏具屋に成り下がるところであったのです。
通常の仕様で仏具を施工していたら、おそらく廻りの迫力に押さえ込まれ、荘厳仏具どころではなく寺院家具というところでした。まさかここまでとはと、肝を冷やしながらも面目を失わずに済んだのでした。
私共がここまで申し上げられるのは、某ご寺院様の一言があったればこそ…、
「ええやないか!」
中山寺様、ありがとうございました。